ブログ
鋳鉄ヘッド用 T‐SPEC ハイブリッド材バルブガイド、登場です!
これまで数多くの鋳鉄ヘッドをオーバーホールしてきた当社サンダンスですが、この度、新たな施工サービスを開始。それが上にある『鋳鉄ヘッド用 T-SPEC ハイブリッド材バルブガイド』です。
ちなみに写真むかって左からサイドバルブ用、真ん中がナックル用、右がアイアン・スポーツスター用となっています。
これまで当社サンダンスでは鋳鉄ヘッドの車両に対してダグタイル鋳鉄材のバルブガイドに銅を極厚コーティングした『T-SPECバルブガイド』を採用しており、その絶対的なメリットは昨年に出版した工学書『ハーレーダビッドソン・ダイナミクス 発行 (株)マガジン・マガジン 発売ジュネット(株)』でも紹介させていただいてますが、まずはおさらいとして鋳鉄ヘッドにおけるバルブガイドについてのお話や今回、新たに『鋳鉄ヘッド用 T-SPEC ハイブリッド・バルブガイド』を採用した経緯から説明させていただきましょう。
まずナックルやアイアンスポーツなどの鋳鉄ヘッドの場合、ブロンズ材のガイドを使ってはいけないことを当社サンダンスでは数十年に渡って言い続けています。
単純にバルブガイドという部位に対してブロンズ材が良いのは間違いありません。しかし、それはアルミヘッドの場合に限られます。
その中で最も良いのがベリリウム・カッパー、続いてマンガン成分を多く含有したマンガニーブロンズ、またアルミ青銅(これはアメリカではAMPCO-45と呼ばれるニッケル含有のブロンズ材)やシリコンブロンズなどがバルブガイドの材料として見られます。
しかし、これらは鋳鉄製ヘッドには残念ながら使うことが出来ません。
その理由は何であるかを簡単に説明させていただくと『鋳鉄ヘッドとアルミヘッドの熱膨張率の違い』があります。
鋳鉄というものはブロンズやアルミに比べて熱膨張が少なく、言うまでもなく逆に熱膨張が大きいのがアルミです。
ブロンズ系素材や銅も熱膨張が大きいゆえ、同じく性質を持つアルミと『なじみ』が良いのですが、その逆にあまり熱膨張しない鋳鉄ヘッドにブロンズ系ガイドを入れてしまうと、ひとつの問題が生じます。
熱膨張の少ない鋳鉄鋳鉄ヘッドにブロンズ系ガイドを入れてしまうと、ガイドだけが高い熱膨張を持つゆえ、外に、外にと膨張していきます。その外への膨らみが臨界に達すると今度はその熱膨張がバルブガイドの内側に向かうのです。こうした順を追ってクリアランスが狭くなり、バルブが焼き付いてしまうのです。
鋳鉄ヘッドの場合、エンジン暖気時でそもそも熱伝導を良くして焼き付きを防止するために使用したバルブガイドのブロンズ材が裏目に出てしまうのです。
そのブロンズ系バルブガイドが逆に冷えた時は熱膨張によって外側に膨らもうとしていたものが逆に内側に収縮していきます。そのため、打ち込んだブロンズ系バルブガイドがクビレたように細くなってしまい、場合によっては手で抜けてしまうほどにユルくなってしまいます。
ナックルなどもバルブガイドで外側のロッカーカバーのオイル漏れを止めるよう固定されているのですが、ブロンズ系素材の場合、その肝心のバルブガイドがクルクルと回ってしまったり、動いてしまったりするケースが見られます。やはりここも素材によって異なる熱膨張の違いが原因です。
そこで当社サンダンスではナックルやアイアンスポーツなどの鋳鉄製ヘッドにはダグタイル鋳鉄製のバルブガイドを推奨しているのですが、この鋳鉄ガイドを鋳鉄ヘッドへ圧入しようとする場合、硬い素材同士ゆえ、おさまりが悪く、それを無理やりに入れようとするとヘタしたらヘッドが割れてしまうという問題が生じます。
そうした問題を解消するために当社サンダンスでは、これまで『鋳鉄ヘッド用 T-SPEC バルブガイド』を推奨してきたのですが、これは数ある鋳鉄製バルブガイドの中でも黒鉛を多く含有したダグタイル鋳鉄FCD500を使用し、そこに極厚の銅をコーティングしたもの。
先ほど書いたとおり、硬いもの同士だと「なじみ」が悪い鋳鉄ヘッドと鋳鉄ガイドではミクロの世界で見るとヘッドとガイドの間に隙間が生じてしまいます。それをなじませるために当社サンダンスではこれまで鋳鉄ガイドに極厚の銅をコーティングしていたのですが、それが銅のガスケットのように「イイ感じ」でつぶれて密着性を高める効果がありました。しかもそれは何ミクロンの薄い皮膜の世界の話なので熱膨張の影響を受けることもほとんどありません。
この措置によって上にある図のとおり「バルブの熱がガイドを通してヘッドに逃げていく→銅ゆえに放熱性も鋳鉄同士より圧倒的に良くなる→ブロンズ材よりは放熱性は劣るものの、鋳鉄のガイドとヘッドの組み合わせよりは良好」という理由で銅の『T-SPECコーティングバルブガイド』を鋳鉄ヘッドに採用していたのですが、それも時代の流れによって施工法を変更するに至った次第です。
現在の日本では多くの企業が工業製品を生産する「第一次産業」の拠点を海外に移してしまったのですが、その結果、特殊なコーティングを行えるところが無くなってしまい、あったとして相当なコストになってしまうのが現状となっています。またコーティングやメッキなどの金属表面処理に携わる産業も法律の変化や職人さんの高齢化により、この先、衰退していくであろうことが悲しいことに現実となっています。
今回の『鋳鉄ヘッド用 T-SPEC ハイブリッド バルブガイド』に至ったのですが、それも結果的に「より良い」サービスをユーザーの皆様に提供できると自負するものとなっています。
これは「耐久力を保持できる硬いダグタイルFCD500の鋳鉄バルブガイドに薄いブロンズ材をキツく圧入させた状態から削り出していく」という工法で生産されたものなのですが、これまでの銅をまとった『T₋SPECバルブガイド』に比べ、より丈夫な材料であり、熱膨張も少なく、そこそこなじむものとなっています。先ほども「ブロンズ材」の放熱性のメリットを書かせていただきましたが、そうしたメリットを持つ新サービスが『鋳鉄ヘッド用 T-SPEC ハイブリッド材バルブガイド』なのです。
ちなみにこの施工サービスの『鋳鉄ヘッド用 T-SPEC ハイブリッド材バルブガイド』化に伴い、作業方法も変更され、ガイド穴は前後ヘッドのインテーク、エキゾーストともに同サイズで穴開け加工。多くの中古鋳鉄ヘッドは長年に渡る使用によってガイド穴も拡大されていたり、ガイド穴の中にキズがついてしまったりという問題があるのですが、そこを現在の高精度の機械加工で4か所同時に穴開け。もちろん、ここは極端にガイド穴を拡大するのではなく、たとえば16㎜の穴が開いていた箇所は16.5㎜に拡大する程度で若干、オーバーサイズとすることで修正するというレベルのものとなっています。もちろん、現代の機械加工ゆえ、精度的にもガイドが『抜け』を起こすこともありません。
さらにブロンズ材を圧入した『鋳鉄ヘッド用 T-SPEC ハイブリッド バルブガイド』は熱伝導も良いので鋳鉄ガイドでもオイルシールの取り付けも可能。放熱性が高く、よく冷えるという性質上、オイルを最小限にしてもオイルが炭化しないというのも特徴となっています。
通常、鋳鉄ガイドの場合、オイルシールを付けているとあたかも「雨天の時のクルマのワイパーの水」のように完全にオイルが切れることがないのですが、鋳鉄ガイドの場合、かなりの熱を持つゆえ、残留オイルが炭化し、それがバルブの焼き付きの原因につながります。
しかし、当社の『鋳鉄ヘッド用 T-SPEC ハイブリッド材バルブガイド』は熱伝導率も高いので、そうした問題も起こりません。アルミヘッドで用いられるブロンズのバルブガイドと同じように微妙にオイルシールを通る量くらいの最低限潤滑できるくらいのオイル量のレベルでも焼き付くことはありません。当然、鋳鉄ガイドでもオイルシールが取り付け可能です。
現在の日本の一次産業の状況から新たな手法を模索し、行き着いた今回の『鋳鉄ヘッド用 T-SPEC ハイブリッド材バルブガイド』ですが、過去を振り返ると、たとえば海外メーカーのサスペンションが型式変更でオーバーホールキットがいきなり無くなってしまう問題を解消すべく開発に至った『サンダンス/KYBトラックテック ネオロードホールダーリアショック』のように『災い転じて福となす』パーツが多いのもまた事実です。過去のサスペンションが、より性能アップしたように今回の『鋳鉄ヘッド用 T-SPEC ハイブリッド材バルブガイド』も確実にアップグレードが果たされたものとなっています。
現在、サイドバルブ用とナックル用、アイアンスポーツスター用が準備完了いたしましたので、鋳鉄ヘッドの旧車でお困りの方はお気軽にぜひ当社サンダンスまでお問合せください。