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いまだ後を絶たない高圧縮化チューンの弊害について

これまで当ブログや雑誌連載、そして現在発売中の書籍、“ハーレー・ダビッドソン ダイナミクス”などで“日本とアメリカのガソリンオクタン価の違い”と“それに伴う高圧縮化チューニングの危険性”について(それどころかネットが発達する以前の数十年前より)警鐘を鳴らして続けている当社代表のZAK柴崎ですが、いまだサンダンスには他社で施工された、いたずらに圧縮比を上げたエンジンが持ち込まれているのが現状です。

日本とアメリカのガソリン事情を改めて説明すると両国は異なる基準表記となっており、じつは日本のハイオクでも、オクタン価は米国のレギュラー程度。古いマッスルカーなどが現在でも走り、大切にされている米国ではスタンドでも100オクタン以上のガソリンが販売されているのですが、日本のガソリンはそうではありません。ゆえに米国で販売されているチューニングキットをそのまま指定どおりに組み付けても、日本のガソリンで安心して使用できるものがないのです。

ではその“ガソリンのオクタン価”とは何か? ということをまずはここで極簡単に説明致しましょう。

これはエンジン内(燃焼室)での自己着火が起こりにくい数値のことで、ノッキングの起こりにくさ、耐ノック性を示す数値のこと。つまり、この数値が高いほどノッキングが起こりにくくなっています。

内燃機関は理論上、シリンダー内のピストン位置が上死点で混合気に着火し、ピストンが下死点に移動した時点で爆発が終了するのが最も効率が良く、ノッキングも起こさないのですが、すなわち燃焼エネルギーを一瞬で解放するよりも、ピストンの動きにつれてゆっくり解放した方が効率的なのです。

つまりは圧縮行程の後半に、ピストンが上死点の手前でプラグが着火をして燃焼を始めることが正常な爆発行程なのですが、何らかの原因でプラグが着火する前に燃焼室で発火が起こる現象があります。これは症状もノイズ(エンジンから発せられるキンキンという音)もノッキングに非常に酷似しているため、すべてノッキングと表現されてしまっているのが実状なのですが、しかし、正しくプラグが着火する前に燃焼室内で起こる早期着火のことはプレイグニッションと呼びます。そしてこれこそが、当社に多く持ち込まれる“不適切に高圧縮化されたエンジンに見られるダメージ”の要因に他ならないのです。

これは先日、当社サンダンスに修理で持ち込まれたS&S製スーパーサイドワインダー124cu-inのエンジンのピニオンシャフトなのですが、まるでQRコードが刻まれたかのように強烈な“ゆず肌”となっているのがお分かりになるでしょう。これこそが日本のガソリンオクタン価に適合しない、不適切な高圧縮化によってエンジン内部に大ダメージを負った症状の典型なのです。

このノッキングの原因は、不適切に低いオクタン価のガソリンの使用や早すぎる点火時期、高すぎる圧縮化、ガソリンの希薄な混合気セッティング、燃焼室形状の悪さ、オーバーヒート、車重とギア比の選択ミスによる高負荷時などがあるのですが、この異常燃焼が起こると燃焼室内の圧力は圧縮上死点前でありながら最大値まで上昇してしまいます。それがピストンやクランクに物凄い衝撃の負荷を与え、致命的なトラブルにつながるのです。

上のピニオンシャフトにしても“ゆず肌”となった反対側の面をご覧いただくと、さほど距離を走っていないものであることがお分かりでしょうが、これらのダメージは金属疲労や摺動部の減りなどではなく、明らかにノッキング(プレイグニッション)が原因です。

ちなみにS&SのスーパーサイドワインダーはEVOスタイルでありながらクランクにポジションセンサーが刻まれたタイプが使用された「混ぜこぜ」エンジンなのですが、残念ながらソレはあえて言ってしまうと「悪いどころどり」といえるもの。もちろん、当社サンダンスではその欠点を改善し、スーパーサイドワインダーに採用されている少し前の細いTC用クランクピンを後期TC用へ交換した上でピストンを適正圧縮の鍛造ピストンに変更。スーパーサイドワインダーはシリンダー長も短く、ある意味、やっかいなエンジンなのですが、様々なメニューを組み合わせ、燃焼室を加工し、適切な圧縮比のエンジンに再生することも当社サンダンスの強みです。

さらに別の事例をお伝えすると、上の写真は品質に名高いJIMS製ショベル用とEVO用のクランクピンなのですが、どちらも過剰な圧縮比によりダメージを受け、段減りと虫食いの状況が確認できると思います。双方、どちらもさほど距離を走っていないのですが、それほどまでにエンジンに決定的なダメージを与えるのが不適切な高圧縮化なのです。

過去にこうしたブログを何度も書いているので、多くの方はご理解いただけていると思いますが、米国と日本のガソリンのオクタン価の違いを考えずに、いたずらにパーツを組み、エンジンを壊してしまうことは、そのパーツをチョイスしたショップ側の責任です。それらパーツは米国内のプレミアムガソリンの使用とレーシングユース・オンリーであることが取り扱い説明書にも記載されています。ちなみにアメリカはレースに対応しているオクタン価のガソリンが街中のガソリンスタンドでも入手可能なのですが、日本はそうではありません。さらにいえば現在は2012年よりエタノールが10%混合され、キャブ車よりインジェクション車に適したガソリンになっていることも忘れてはならない事柄でしょう。

現行のハーレーでもノーマルの状態でノッキング(プレイグニッション)やそれが原因になるトラブルに関する相談が後を絶ちませんが、米国製のハーレーはあくまでも米国のガソリンスタンドで販売されている燃料を想定した設計である、ということを考えればおのずとトラブルや故障の原因もご理解いただけると思います。ノーマルでも日本のガソリンオクタン価に対して圧縮が高すぎるのです。無論、ここまでブログをお読みいただければわかるとおり、不適切な圧縮比は「百害あって一利なし」なのです。

こうした高圧縮化によるトラブル事例が後を絶たず、今もなお多くのエンジンや車両が当社サンダンスに持ち込まれているのですが、これが残念ながら日本のハーレー業界の現実なのです。

いまだその「ガソリンオクタン価」とは何かという「意味」を考えずに闇雲にパーツ交換だけをすれば良いと考える方が多いのも残念な事実なのですが、そうしたトラブル例や改善策を伝えていくことも我々サンダンスの使命であると思います。圧縮比を適切化し、エンジンの効率を向上させ、無駄なロスを無くし、正しくパワーとトルクに変換すれば、より楽しく、耐久性も高く、安全に楽しめるのがハーレーのエンジンなのです。

そうした事例やエンジンに関する理論、改善方法は現在、発売中のハーレー・ダビッドソン ダイナミクスに多数掲載しておりますので、皆様、オレンジ色の文字部分をクリックしてお求めの上、ご参照くださると幸いです。

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