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ハーレー・カム タイミング変更について当社の技術紹介です(前編)

「その気になればカタログ一冊からパーツを選び、一台のバイクを組み上げることが出来る」ハーレーというオートバイですが、それはすなわち豊富なパーツが存在していることを示していると思います。
現在はエンジンにしてもS&Sをはじめとするメーカーから様々なタイプや排気量のものがラインナップされているのですが、これは一昔前なら考えられなかったこと。EVOタイプの1カムで124cu-in(約2,030cc)の排気量を超えるエンジンはストリート用の普通のハーレーチューニングでは、有り得ない話です。
近頃、この手のビッグモーターが弊社サンダンスに持ち込まれることが多いのですが、やはり根本的な部分を改善し、『調律』しなければストリートで「楽しく安全に」「ロングライフ」で走らせることは難しいと言わざるを得ないのが現実です。
S&Sや、その昔のマーチ・モーターなど2,000ccを超える排気量のエンジンですが「オクタン価が低い日本のガソリン事情」では、まず燃焼室の体積がまったく合いません。実際、「乗りづらく」「低速も効かない」「オーバーヒートする」などの理由で弊社サンダンスに、こうしたビッグモーターの対策チューニングの依頼が入ることも、しばしばあります。
今回、弊社サンダンスにもS&Sの124cu-inのハイコンプ・モーターが持ち込まれたのですが、そもそもこの手のエンジンは街乗りでは使いづらい特性となっています。たとえば100オクタンを超えるガソリンが入手可能なアメリカでは「乗りづらくともパワーを感じつつ何とか乗ること」は出来るのでしょうが、低速でギクシャクする上、ドッカンとアクセルを開けて加速しなければ、そのエンジンの本領も発揮出来ません。
つまりはドラッグレーサー的な走り方をしなければならないのですが、多くの日本のユーザーの皆さんが求めている低速から「スタタタッ」と粘り強く走る“ハーレーのテイスト”とは大きく隔たりがあるのが現実ではないでしょうか?

たとえば燃焼室の形状、体積の変更やフライホイールのヘビーウエイト化、リバース・トップのピストンへの変更などで適切な圧縮比とすることは可能なのですが、しかし、もともとドラッグレーサー的な高圧縮の高回転型エンジン用のカムまでも特注で作り直すことは金銭的に現実的ではありません。

それゆえに大排気量のEVOスタイルのカムは現在、ラインナップされているものをファイン・チューンして使用するしかないのですが、今回はそれを可能とする当社サンダンスの作業メニューを紹介させて頂きます。

なお、このメニューに関しては「カムのみのチューニング」をオーダー頂いたとしても、ご対応しかねますので、その点、あらかじめご了承ください。

当社、サンダンスが考えるチューニングとはヘッド、キャブおよびEFI、ピストンやコンロッド、シリンダーなどエンジン全般、多岐に渡ってトータルで行います。オーナー様の好みやエンジンの仕様など千差万別な上、「エンジン・チューニングとは何か?」をお分かりの方なら、この我々の姿勢もご理解頂けると思います。

その「カムのファインチューン」を具現化させる際に上にある治具(写真が手ブレでスミマセン)を使用するのですが、まずはこれによって何を行うのかを説明させて頂きます。
たとえば繰り返しになってしまうかもしれませんが、一口に「エンジンチューニング」といっても用途やオーナー様の好みによって、その仕様はケース・バイ・ケースで変化します。
その項目を羅列していくとヘッドのポートや燃焼室、マフラーの形状やキャブレターの口径など、様々な要素が挙げられるのですが無論、カムにしても然りです。
リフト量やデュレーションなどカム山の形状でエンジンの吸排気を司るカムの特性が変わることは皆さん、ご存じでしょうが、元のカムのタイミングギアをズラすことで、ちょっとした『味付け』を、わずかに変えることが可能です。

ちなみにカムギアはタイミングマークから1つ山をズラすと10数度ズレてしまうのですが、そもそもカムタイミングは10度も20度も変更して良いものではありません。これはクランク2回転に対してカムが一回転する、というエンジンの構造を大前提に考えて頂ければお分かりになると思います。
加えて、そこまでカムタイミングをズラした場合、バルブとピストンが接触する問題が必ず生じることになりますし、カムタイミングを動かせるのは、せいぜい3~6度の間と考えて頂ければ問題ないと思います。その範疇の中で少しだけ高回転型にしたり、低回転型にしたり、微妙にセットアップすることが今回のメニューとなっています。

では、ここからは、その手順を簡単に説明しましょう。まず上の写真のようにピニオン・タイミングマークの元の位置を治具の0度に固定する所から作業がスタートします。

治具にマーキングをして、ギアの元位置を記録したらカムギアをプレス機で抜きます。

抜いたギアを4度アドバンスした状態で治具に固定し、プレスインします。ここでの『アドバンス』とはギアを進める方向を指し、逆に遅らせる場合は『リタード』と呼びます。
こうしてカムタイミングを任意に変更することで、わずかながらカムの特性を変えることが出来るのですが、しかしながら、これも元のカムの特性を大きく変え、『別モノ』にすることは叶いません。たとえばドラッグレース用のレーシングカムを、ゆったりとタンデムでツーリングに行くような特性に変えることは不可能です。あくまでも元のカムの特性の中で微妙に高回転、低回転にセットアップする作業であるとお考え下さい。

今回はカムタイミングの変更に関する実作業の紹介に終始させて頂きましたが、次回のブログでは「カムタイミングを変更する意味」と設計のメカニズムについてをお伝え出来れば、と思います。

 

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