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今もなお多くの方に伝わらないと感じる『圧縮比とノッキングの関係』と、その危険性について

過去にも当ブログや各雑誌媒体などで当社、サンダンスでは『エンジンのいたずらな高圧縮化が招くトラブル』について何度もお伝えしてきましたが、今回も典型的な『ハイコンプ化』によるプレイグニッションによって大ダメージを負ったエンジンが、とある業者様から持ち込まれました。

エンジンの出力向上の手法に『ハイコンプレッション=高圧縮化』がありますが、しかし、現在の日本の『ガソリン事情』を考えるとそれも適切な手法ではありません。
それどころかアメリカでいうところの『レギュラーガソリン』が日本のハイオクよりも高いオクタン価であることは知っておきたい事実です。

ではなぜ、この「ハイオクガソリン」が必要となるのでしょうか? それは「エンジンの特性」の違いが大きく関わっています。

たとえば(クルマの)GTRのように高回転、高出力なエンジンは“熱”を持ちやすい性質なのですが、そういうものに対して、異常燃焼を起こしづらく、火が着きづらいガソリンがハイオクなのです。
とはいっても一旦、火が着けば一気に爆発的に燃えるのもハイオクの特徴の1つです。この性質を簡単に説明するとプラグに火が着きづらいというよりも着火までガマン強い、とでもいえばいいでしょうか。レギュラーもハイオクもガソリンの基礎は一緒ですが、添加剤の配合によって、このように異なる性質が与えられています。
細かい説明をすると、かなりの文字量になってしまうので今回は割愛させて頂きますが、ともかくエンジンのセッティングや設計はすべて燃料の性能を基にして決まります。つまり現行ガソリンのオクタン価に合った燃焼室内の圧縮比等を設定した上で、実質的な空燃比を探し出し、現実的で最高の燃焼条件を充たす必要があるのです。
このブログの冒頭でもエンジンの出力向上の手法にハイコンプレッション=高圧縮化があることを説明させて頂きましたが、しかし、ハーレーのようなロングストロークかつ低回転指向のエンジンでは、必ずしもそれは該当しません。この圧縮比とはシリンダー内の空気、または混合気がピストンの上昇によって、どれくらい圧縮されるのか、その割合を示す数値であり、一般的には圧縮比が高いほどエンジンの熱効率が向上するという理屈なのですが、これはあくまでも冷却性が高い内燃機で高回転域での高出力、最高速を伸ばす為のチューニング手法であること。その点を忘れないでおきたいところです。

しかし、それもハーレーのように空冷で排気量が大きく、燃焼室容量が広いエンジンの場合、高圧縮がイコールで高性能とはなりません。それどころか、過剰な高圧縮化が燃焼室内に不安定な高熱を引き起こし、エンジンの『異常燃焼』によるトラブルに繋がっていることは覚えておきたいところです。

上の写真にあるエンジンが『高圧縮化』によるダメージを受けた典型的な例なのですが、そのスペックを説明すると1200ccのショベルにワイセコ製040のオーバーサイズピストンで圧縮比9.5;1というもの。組み上げてから2000~3000kmほどしか走行していないそうですが、プレイグニッションによるダメージはご覧のとおり甚大です。

その一方でピストンの裏側を見ると驚くほどキレイなことが、この写真からもお分かりになると思います。これはすなわち、実走行距離の少なさを物語っているのですが、以下のクランクピンやフライホイールワッシャーをご覧頂ければダメージの甚大さがきっと伝わるでしょう。

今回のダメージは典型的な『プレイグニッション』という症状なのですが、これは高すぎる圧縮が主な原因となり、プラグ点火前に着火が起こるノッキング状態となっています。ちなみにこの症状は点火時期の調整やノックセンサーによる自動補正機能では解決出来ず、燃焼室の体積の拡大やピストン形状の適切化が解決策です。

その具体的な解決例は弊社代表のZAK柴﨑が執筆した『ハーレーダビッドソン・バイブル』で紹介させて頂いているのですが、多くのお客様や弊社サンダンスのスタッフが回し読み、熟読しているゆえ、すっかりボロボロ。しかし、これもZAK柴﨑が持つ知識の共有に少しでもつながっている証といえるのかもしれません。

今回のショベルの場合、サンダンスが考える「ショベルらしい」鼓動感溢れるエンジンとする為、圧縮比を7.2:1~8:1の間に設定する予定ですが、きっと多くの方の印象より『低い』のではないでしょうか? しかし、上のトラブルの写真をご覧頂ければお分かりのとおり、「高圧縮がイコールで高性能」に繋がるワケではないのです。

たとえば『うまみ』を追求するあまり、過剰に出汁や塩を入れ過ぎた料理が結果として台無しになってしまうように……何事も『適正』であることが重要なのです。

 

 

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