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ハーレー・カム タイミング変更について当社の技術紹介です(後編)
前回のブログでカムタイミングの変更についての実作業をご紹介させて頂きましたが、では何故、4度カムタイミングを進めたのか? 最初に結論を言ってしまうとこの数値はエンジンの仕様やオーナー様によってケース・バイ・ケースで変化します。
いうまでもなく、チューニングとはマニュアルどおりにいくものではなく、導き出される数値は、これまでの経験を基準としたものとでも言えばいいでしょうか。たとえば今回、サンダンスがカムギアを4度ズラしたからといって、それがすべてのエンジンに該当するワケではありません。
このS&S製124cu-inのEVOタイプのエンジンに関して言えばこれまでの経験から、まず4度という数値を試しているのですが、前回にお伝えしたとおり、ここが動かせるのも、せいぜい3~6度の間。それで特性が変わらないようだったら、カム自体を変更した方が無難でしょう。
もちろん、今回の4度という数値は闇雲に決定したものではなく、まずカムタイミングの変更が、エンジンにどういった特性の変化を与えるのかを知る必要があります。
たとえば点火時期を少し早くするとエンジンが高回転型になるということは多くの方がお分かりだと思います。そして逆にカムの場合はタイミングを若干、遅くした方が高回転型になるという性質を、まずは知って頂きたいのです。
その例として、まずは『注射器』の構造を思い浮かべてください。たとえば下の写真のような注射器の先にまったく針が付いてない状態の場合、ピストンを押せば『スッと』動いてくれるのは過去の『理科の時間の実験』の経験などから多くの方がお分かりになるでしょう。
これをヘッドのバルブに置き換えて考えてみて下さい。エンジンというものは高回転になると早い速度で空気の入れ替えを行いたいものですが、注射器の先をインテーク、それを塞ぐ指をバルブと考えてみると、ここがなるべく早く開いた方が良いと考える方も多いでしょう。
しかし、空気というものは「溜めて充填」させた方が勢い良く動くという性質があります。それゆえに、注射器の先を塞いでおいて、ピストンをグッと動かし、ある程度のところで指先を離すとピストンが勢い良く「ピュッ」と動くことは体感としてお分かりの方も多いと思います。
一見するとバルブが開くタイミングを遅くした方が『低回転型』に感じるかもしれませんが、現実は、この注射器の例のとおり「空気を溜めて、充填させ、一気に開いた方が“流速”が速くなる」のです。
つまりはインテークのバルブも「グーッ」とバキュームを溜めておいて「プシュッ」と一気に解放した方が燃焼室に速く混合気が入るのですが、これは『音速の世界』の話であり、人間の目で確認出来るものではありません。またこの理屈を頭の中で整理すれば、カムタイミングを「進める」ことが低回転型になるということはお分かりになると思います。
ゆえにエンジン・チューニングの世界では実践的に様々なことを試していくしか道はないのですが、「実際にカムタイミングを何度、ズラせば良いか」という部分は経験なしでは導けません。今回のS&S製124cu-in、EVOタイプ・エンジンのカムタイミングを4度アドバンスさせた事は、すべて当社代表である“ZAK”柴﨑の経験によるものです。
たとえば、こうした“理論”を短絡的に捉え、「高回転型のエンジンで、なおかつハイコンプでもカムのオーバーラップが長ければ低速で圧縮が落ちるからノッキングが消える」という間違った意見も耳にします。
しかし、これはキックでエンジンを掛ける際に圧縮が抜けやすくなっているだけの話で、実際にエンジンが掛かれば“高圧縮”であることは変わりません。オーバーラップの多いカムでゆっくりとクランキングすれば、インテークとエキゾーストのバルブが同時に開いている時間も長いので圧縮が“抜け”ますが、“落ちる”ワケではありません。
たとえば、しばしば「カムで圧縮を落とす」などという間違った意見がプロサイドすらからも聞こえることがありますが、カムで圧縮そのものが落ちるということは有り得ません。オーバーラップの多いカムを組み込むことでキックスタート時に圧縮が掛からないことはありますが、エンジンは始動した途端、アイドリング時でもピストンが1秒間に10往復以上しているのです。ゆえにカムのオーバーラップで圧縮が落ちようはずもありません。
今回のS&S製124cu-in、EVOタイプ・エンジンのカムの場合、カムタイミングを4度、アドバンス(進める)させることで、混合気を必要以上に充填せず、「適切なタイミングでふんわりと空気が燃焼室に入る」という特性に変更しましたが、これはつまり“低速型”に変更したということ。低速から粘るようなトルク感の発生と多くの方が思い描くであろう“ハーレーらしい鼓動感”を与える仕様であることをご理解ください。
おそらくこの仕様変更は“ZAK”柴﨑の経験上、十中八九、ベストなものとなることが予測できますが、それも実践的な作業を繰り返してきたからこそ。たとえばハイコンプ仕様のビッグモーターでエンジンからノッキング音がする、走りがギクシャクして楽しくない、オーバーヒートが収まらないという方は、是非、サンダンスまで一度、ご相談ください。