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コンロッドに対する正しい知識とは・・・

これまで多くのテクニカル記事をご紹介させて頂いた当ブログですが、今回は皆さんが意外と知っているようで知らない“コンロッド”についてお話したいと思います。

たとえばコンロッドの小端部、いわゆるピストンピン側の摩耗等を気にする方は多いと思いますが、大端部に対しては多少の歪みでもラッピングをやらずにコンロッドごと交換してしまうというメカニックの方も多く見受けられます。

しかし、この“力によるものではなく、熱変形によって歪みが出尽くした”コンロッドこそが、チューニング・パーツとして思わぬ力を発揮するのです。

 

 

以前にクランクケースについてご紹介させて頂いた際、「長年に渡り、温まったり、冷えたりを何百、何千回と繰り返すうちに初期の歪みが出尽くし、まるで老木のようにアルミが鍛えられる“ 枯れたクランクケース ”」についてお伝えしましたが、これはコンロッドの大端部に関しても同じです。コンロッドを長年に渡り使い込み、そこから精度を出し、再生向上プログラムを施せば、その先は狂いづらい、高精度のパーツとして生まれ変わるのも紛れもない事実なのです。

コンロッドの大端部といえば構造的に肉の厚い部分と薄い部分があり、長年、使用していると熱変形による歪みが生じてくるのですが、それは決して悲観すべきものではなく、そうしたコンロッドをラッピングすることで大端部の真円を再び出し、正しくベアリングを組み込めば“枯れたクランクケース”と同じように高精度なパーツに生まれ変わります。 たとえば“エンジンの回転を上げて飛ばす人”や“エンジンのパワーがありすぎる”マシン、“ストロークとコンロッドの連桿比が適切でないゆえ、大端部に負担が掛かった”マシンなどによって、コンロッド大端部の穴の頂点が狭まり、“雫(しずく)状”に長くなったクローズインの状態のような力による歪みは致し方ありませんが、熱変形による歪みが生じたコンロッドの場合、老木を使用した高級な床柱のように“狂いが出ない”という特徴があります。家屋などを建築する際、若い木材を使うと含有されていた水分が乾き、変形し、どんどんヒビが入ったりするものですが、それに対して水分が飛び、枯れ切った“老木”の場合、床柱として高級なものと認識されています。

“枯れる”という言葉からネガティブなイメージで捉えてしまう方も中にはいるかもしれませんが、決して悪いものではありません。使い込んだエンジン、そのパーツで再び精度を出し、組み込んだものは老木を使った床柱と同じように変形率の少ない、高精度なパーツに進化します。だからこそ当社、サンダンスでは可能な限り、もともとエンジンに組み込まれていたコンロッドを使うことを推奨するのです。

勿論、コンロッドが焼き付いたり、大端部の穴が縦に変形したクローズインの状態などで「力に対して弱いな、強度的に厳しいな」と判断した場合はキャリロやS&S製などの強度の高いタイプの社外コンロッドへ交換することもあるのですが、これは馬力のあるエンジンやエンジンの回転を上げて飛ばすような人に向けたケースがほとんどであり、基本はストックのコンロッドをラッピングし、再生向上プログラムを施すことでカバー可能です。コンロッドの長さ、連桿比に相応しいストロークの間で馬力を出したエンジンなら強化タイプのコンロッドに交換するまでもありません。パンヘッドやショベルヘッドなどの旧車ならば尚更でしょう。

加えて、もうひとつお伝えすべきことと言えば、コンロッドの大端部をラッピングし、真円を出し、精度を高めた後に合わせるオーバーサイズ・ベアリングの設定も重要です。 作業の手順としてはバルブコンパウンドを塗布し、ラッピングツールによってコンロッドの大端部を研磨し、真円を出すのですが、これに合わせてオーバーサイズのベアリングを設定するのが正しい手順となります。たとえるならベアリングに合わせてコンロッド大端部の穴を合わせるのではなく、正しく精度を出した穴に適合したベアリングを選択する、というのが正常な作業となります。それゆえにオーバーサイズベアリングは1/10000インチ単位で細かく種類が設定されているのです。コンロッドの大端部が減ったら真円を出し、それに合うベアリングを使用するのが基本中の基本です。

しかしながら、この1/10000インチという単位は細かい数値ゆえ、正しく測定する測定器が存在するワケではありません。また熱膨張、温度によって数値も刻一刻と変化します。つまりはここの設定に関しては「走行時にこのくらいになるであろう」という予測に基づいた“経験値”でしかベアリングサイズを設定出来ないのです。

コンロッドの大端部の真円をラッピングで出し、ベアリングを組み、クリアランスがダメならまた違うものを組み、という繰り返し作業は正直言って、手間が掛かるのですが、それをやらなければ正しく性能を発揮出来ないのは明白です。それゆえに多くの経験に基づいた“手感覚”が作業の要になるのですが、その点は数多くのエンジン・チューン、エンジン・オーバーホールを経験する当社に是非、お任せください。

闇雲にパーツを交換するのではなく、正しい工学的な知識と経験に基づいたエンジンの“調律”と“再生向上プログラム”…それはコンロッドに於いても同じなのです。

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