topics

トピックス

ブログ

鋳造クランクと鍛造クランクに関する誤った認識と、それぞれの特徴の違いについて

数ある工業製品の中でアナログ的な魅力を持ち、エンジンの鼓動感などが、あたかも生き物的に比喩されることもあるハーレーダビッドソンというバイクですが、今更いうまでもなく、あくまでも「工業製品」であることは忘れてはならない項目です。
つまりはエンジンの構造やチューニング方法など、明確な答えというものがあるのですが、しかしながら今もなお、エンジンチューニングや修理に関して科学的な根拠や実践に基づいたものではなく、「イメージ」で語られることが多いような気がします。
最近、あるお客様から「フライホイールは鋳造の方がエンジンの振動が柔らかい」という趣旨のお話を聞いたのですが、これなどは根拠のない説の典型といえるものです。

ハーレーの構造、その歴史を振り返るとショベル以前では鋳造鉄鋼材(以下鋳鉄)でフライホイールを製造してきました。この理由は鋳造の型の製作が容易で製品コストが安い為です。
ちなみにこの鋳鉄の製造方法を簡単に説明すると『木型でおこした砂型に溶解した鋳鉄素材を流し込む』というものなのですが、これだと含有炭素や黒鉛成分が油の役割を果たす為、切削油を必要とせず、切削機による機械加工も容易です。しかし、その一方、鋳造段階で金属分子の比重が全体で均一になりにくく、強度ムラが出来やすい欠点があります。
ショベル時代になると鋳鉄に球状黒鉛を含有するダクタイル鋳鉄材を採用することで強度を向上させたのですが、それでも鋳造製の性質上、製品ムラが発生してしまうことは否めません。その為、強度的にはやや乏しく、大きな負荷をかける使用用途ではクランクピン穴と回転軸穴との間でクラックが発生してしまう問題もあります。簡単にいえば加工はしやすいものの強度に乏しいのが鋳造の特徴です。

その為、S&S社は早い時期より鍛造鋼材(以下鍛造)製品をリリースしていたのですが、これはやはり強度に優れているがゆえ。ストローカーなどロングストローク化する為のパーツを販売するメーカーとして開発段階でのトラブルなどの経験を活かして、より高水準な『鍛造』が必要であったことは明白です。
ちなみに鍛造鋼の製造工程を簡単に説明すると合金素材を完全には溶解させず、赤く白熱状態に熱した段階で金型に押し込み、圧力をかけて潰してカタチを造る加工法なのですが、これは材料を完全に溶解させないので酸化も少なく、分子構造も安定していてムラがなく、さらに高密度な分子のため、高強度に仕上がる利点があります。
しかし、その製造に必要な金型は熱変形の少ない超高強度合金を用いる上、機械切削と焼き入れを行う製品プロセスは鋳造型とは比較にならないほど高額なものとなります。これを大量生産することでコストダウンを図り、EVO以降のハーレーでも純正採用されたという歴史があります。つまり強度的にハーレーの構造に適しているのは鍛造なのです。

おそらくは鋳鉄=柔らかい素材、鍛造=硬く丈夫な素材という部分が「鋳鉄の方が振動が柔らかく、鍛造の方が振動が硬い」という認識に繋がっているのでしょうが、エンジンの振動を消すためには素材が何であるかという部分ではなく、あくまでも「バランス取り」がキモとなります。
たとえば鋳造と鍛造、二つの異なる手法で作った正月遊びなどで使う『コマ』がある、というシーンを想像してみてください。キッチリと重量バランスが取れたものなら、鋳造であろうが鍛造であろうがコマの回転は変わりません。もちろん、重量バランスが著しく崩れたものなら、いずれのコマでも不安定に回転し、小刻みに揺れることも容易に想像出来るはずです。これが不快な振動の正体であり、鋳造であるとか鍛造であるという部分は関係ない要素です。無論、ロングストローク・エンジンならではの高負荷がクランクピンにかかる、ということを考えれば鍛造であることに対するデメリットは一切ありません。
またフライホイールにしてもハーレーのような車体重量を持ち、荷物を積んで低回転で走る車両の場合、強大な『トルク』を生み出すためには適度な重量は不可欠です。エンジンにおいてフライホイールは爆発で押し下げられるピストンによって発生する往復運動を回転運動に変換しているのですが、フライホイールに適度な重量がなければ爆発行程後の回転モーメントの発生が少なく、それによるピストンを上げ下げする行程の力が十分に得られません。つまりは回転物の質量がトルクの違いに現れるのですが、これは木製の糸車と鉄製の糸車を傾斜のある坂道などで転がした場合、どちらが安定的に力強く転がるかを想像すれば、ご理解頂けるでしょう。また当社が鍛造のフライホイールにヘビーウェイトリングを取り付け、ハーレーらしい「テイストアップ」をするかがお分かり頂けると思います。
当社代表のZAK柴﨑が危惧するのが、こうしたフライホイールの件をはじめ、誤った認識がユーザー様や若手の同業他社様に喧伝され、広がってしまうことなのですが、工業製品の理屈を知り、どのようにしてハーレーのエンジン構造が進化をしてきたのかを考えれば,自ずと鋳造から鍛造へフライホイールが変わったのかも理由がお分かりになると思います。業界全体の未来を考えたら……多くの皆様にとって今回の苦言をアドバイスと捉えて頂ければ幸いです。

 

ページトップへ