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サンダンス・トラックテック開発秘話パート2 フロントサスペンションの重要性について

前回の当ブログにてデイトナウエポンⅡのライダーである匹田禎智選手に「サスペンション開発者としての“ZAK”柴﨑評」を伺いましたが、ではバイクの走行性能を司る“サスペンション”というパーツは一体、どのように開発されていくのでしょうか?

1988年より当社が“サンダンス・レーシングプロジェクト”としてレース活動を開始することになった理由は、決してホビーとしての楽しみやプロモーション目的ではなく、あくまでも「レースという極限の状況の中で得た技術をお客様のストリートバイクに還元する」ということ。それゆえに“曲がる・止まる”ことが高次元で要求されるレースに拘り、綺麗に整地された国内ではなくバンピーな路面である“デイトナスピードウエイ”やオランダの“アッセン”などへ海外のレースへ挑戦し、米国のダートトラックでも結果を残してきたのですが、今までレースの世界を見た限り、トップチームのメカニックですら、サスペンションメーカーのイージーセッティング状態の製品をベースに、“勘”に頼って調整していたような印象を受けたのが正直なところです。

しかし、“ZAK”柴﨑は自らの経験と照らし合わせ、「足回りもエンジン内部と同じように、構造的な理屈に合ったデータをもとに味付けすることが重要である」と語ります。

「足回りって今まで(のロードレースの世界では)メカニックが“勘”に頼ってセッティングをしていたというのが正直なところなんです。プリロードやダンパーをイジって“これならどう?”“こうしてみたらどうだった?”っていう感じで勘に頼っていた部分が大きいというか……ウチのデイトナウエポンⅡではペンスキー製のハイスペックなサスを使っているんですが、セッティングに関しては、そのスペシャリストであるTraxxion Dynamics社のMax McAllisterさんとの出会いと、彼の仕事に対する姿勢に共感している部分が大きいですね。この会社はショックダイナモを使って最高のサスセッティングを数値で表しているんだけど、さらに味付けというか、その上で人間がセッティングをして最終的な調整を出す。いうなれば機械のテクノロジーと人間の勘所の融合体なんです」。

そうした考えのもと、当社のフロントサスペンション・インナースプリングの“トラックテック・マルチレートフォークスプリング”も生み出されているのですが、「結局、エンジンの内部と同じように構造をイメージして設計することはサスペンションも同じなんだけど、それを造る上でサンダンスFCRのように超精密なキャブレターを開発・生産してきた経験が大きかった」と“ZAK”柴﨑は言葉を続けます。

「ウチのマルチレートフォークスプリングは特性の違うスプリングを組み合わせてあるんだけど、その動きの関係性がキャブのスロージェットとニードル、メインジェットの構造と非常によく似ているんです。キャブもアイドリングのスロージェット領域からニードル、そして走行中のメインジェットを使う領域へとガソリンが噴霧されるポイントが徐々に変わっていくものなんだけど、自分自身はサスペンションの内部の動きも同じように頭の中でビジュアル化してイメージしているんです。初期動作からコーナーでトラクションがかかる領域まで徐々に動きが変わっていく部分はバイクが走り出してから、キャブのスロージェットからメインジェットへと変わっていく関係性によく似ている。だからガソリンの濃度をスプリングの硬さに置き換えるとサスペンションの構造ってものも簡単に理解して入りこめたんですね。トラックテックのフォークスプリングは先ほど言ったとおり2つの特性の違うスプリングを組み合わせているんだけど、硬さや長さが違うスプリングを全体の長さが決まっているフォークの中に、どれだけ圧縮して入れるか、その内部の動きをイメージするというか。フォークの中に柔らかいスプリングと硬いスプリングの2種類を入れると、必然的に柔らかい方のスプリングが先に収縮され、その次に硬いスプリングが動き出すんだけど、それがキャブのスロージェットとメインジェットの関係性によく似ているんです」。

「そうしたことを踏まえ、サンダンスではスポーツスターやビッグツイン、旧車などに合わせ、何種類も適切なバネレートのスプリングを試作し、それぞれに適合したものを使用しているんだけど、これにしてもキャブのジェットの番手を揃えることと同じ。キャブレターと同じようにある程度の基準となるセッティングはおのずと決まってきます。そうして数値でデータ化されたものを基準にライダーの体重や乗り方に合わせてセッティングしていくのですが、やはり機械的な数値と人間の勘所、この二つを組み合わせることでベストを導き出さなければならないんです」。


(写真提供:©チョッパージャーナル/ハードコアチョッパー編集部)

「でもサスペンションのセッティングというものをレースや開発をとおしてやってみるとショックダイナモなどの機械のデータだけでも、人間の勘だけでもダメ。たとえば計測装置のショックダイナモを使っても多くの人はスプリングのレートが何kgであるとか縮み側しか見ないことが多いんだけど、複合的に見ないと正しいデータは得られない。たとえば伸び側の動きやオイルが入った場合は? などを想定するのはもちろん、じゃあ“グーッと”入ったスプリングを“ポン”と離すとどうなるのか? その時の動きは? とか様々な部分を複合的に見ないとダメなんです」。

「そういう構造的なことを考えるとフロントフォークのダンパー効果は必要最低限のものでイイんじゃないの? って答えに行き着いたんです。そもそも良いスプリングなら衝撃を吸収出来るので、戻りのダンピングだけ制限出来ればイイという解答です。その上でオイルもKYBにオーダーし、スーパーソフトとソフト、ミディアム、ハードと粘度が違うものを用意させて貰っているんですが、これにしてもまさにスペシャルでブレンドしたもの。通常、フォークオイルって0・5・10・15という感じで5番飛びで粘度が区切られているのですが、ウチのフォークオイルは車種に合わせてコンマ何番、という感じでハーレーの機種ごとにベストの粘度に絶妙に合わせてあるんです。その上でスプリングレートをライダーの体重や乗り方などに複合的に考えた上で合わせてサスのセッティングを決定しているんです」。

こうして「ユーザーの皆さんのハーレーを安全で楽しいものにする」という理念で開発されたトラックテック・フォークスプリングですが、当社サンダンスでは、サスペンション・チューニングに於いて、まずはフロント側からの交換を推奨しています。
たとえば、ハーレーの歴史を思い起こしてみると創業2年目の1904年からフロントフォークという機構が採用されて以来、’52年のKHが登場するまで、ビッグツインモデルも’57年のハイドラグライドまでリア回りがリジッドとなっているのですが、極論を言ってしまえばフロントが接地さえしていればオートバイというものは「乗れないことはない」という構造になっています。

悪路のダウンヒルを走る自転車のマウンテンバイクでもフロントにサスが装備され、リアがリジッドのモデルはありますが、その逆はありえません。要は舵取りの役割をするフロントを決めるのがオートバイの基本なのです。

たとえばリアタイヤが滑ったり、跳ねたりしてもライダーは何とかバイクをコントロールすることが可能ですが、フロントから滑った場合、ほとんどの方が、まず転倒してしまうでしょう。
そうしたことを踏まえ、サンダンスではまずフロントサスの追従性を向上させることを推奨しているのです。その理由を“ZAK”柴﨑は、こう語ります。

「ノーマルのハーレーのサスペンションを見るとはっきりと言ってしまえば性能がイマイチと言わざるを得ないのが現実です。たとえば多くの日本車のカスタムの場合、ノーマルの状態でもフロントフォークの性能も良いので、サスペンションを交換する場合、“まずリアサスから”という方も多いのですが、残念ながらハーレーの場合はそうはいきません。またフロントフォークの交換といえば、一般的にはかなり高額なカスタムになるというのも現実でしょう。しかし、ハーレーを“安全に楽しく走らせる”という点ではノーマルで脆弱なフロントフォークの性能を向上させることが必須項目であることは間違いありません。その点、ウチのトラックテック・マルチレートフォークスプリングは39Φ用で税込み2万9700円、49Φ用でも4万700円となるべく価格を抑えて提供させて頂いていますし、更に言えばフロントフォークスプリングを交換していないお客様の場合、トラックテックのリアサスを販売していません。商売という部分だけで考えると“リアサスだけ売ってください”という方に対応するのもアリなんでしょうが(苦笑)、それよりもユーザーの皆さんに“安全で走ることが楽しくなる”ハーレーを提供することが我々サンダンスの望みなのです」。

「たとえば“ハーレーはリアブレーキ8割、フロント2割で掛ける”ということが、まことしやかに言われることもありますが、すべてのオートバイというものは“フロント7割”の比率でブレーキングするのが基本中の基本です。フロントブレーキを掛け、サスを沈み込ませてコーナリングのキッカケをつかみ、コーナリング中にサスが踏ん張りながら路面をグリップして走らせるのが大前提です。そうした走りを実現する為に、サンダンスでは世界最高峰のメーカーであるニッパツ社にフォークスプリングを特注し、マルチレートスプリングを開発したのですが、結果として国産のネイキッド以上の性能を与えられた自負もあります。また商品名のとおり“マルチレート”なので、あらゆるセッティングに対応出来るのも強みです」。

「現在では全国57店舗で展開する“2りんかん”様でも、このパーツを展開し、提供させて頂いているのですが、それぞれの車種に応じて“こうすればOK”というセッティングデータも取り付け説明書に記載されています。一人乗りの場合や二人乗り、走り方や車重などに応じて適切なセッティングデータがあるのですが、それを失念しないよう、フォークに貼るデータ記載のステッカーも付属させて頂いております。どんなパーツであろうとも“正しく取り付け”なければ“正しく機能しない”のは明白です。その点はやはりご注意ください」。

https://2rinkan.jp/products/sundance_traktek/

「我々サンダンスは過去に極限の走行状況でのテストを求めて超ハイスピードサーキットである米国のデイトナスピードウェイに挑戦してきたのですが、そこで痛感したのがサスの機能はもちろん、“タイヤ空気圧”の重要性です。2006年にデイトナへ出場した時、ライダーの匹田選手から“インフィールドからバンクにかけての場所で、どうしても200km/hくらいのスピードで車体が跳ねる”ということを告げられたのですが、それもタイヤの空気圧を1.85キロから1.82に落とすことで、路面に吸い付くような走りを得た経験があります。その際、匹田選手から“現行の国産ワークスマシンに匹敵するコーナーリング性能”であると言われ、嬉しくも感じているのですが、同時に痛感したのが、やはり“タイヤの空気圧”の重要性です。たったの0.3kgの違いで極限での走りが変わるという事実からも、お分かりになると思いますが、それは公道においても同じなのです。純正ハーレーのマニュアルでは走行時の騒音対策として空気圧が、じつはかなり高く表記されているのですが、それは参考にしないでください。また車体やチェーンラインに対して、タイヤがまっすぐ取り付けられているかどうかも重要です。どんなパーツでも“正しく取り付け”セッティングしなくては“正しく機能しない”ことを先ほども話しましたが、我々が開発した“トラックテック”は、すべてのライダーの皆さんに“安全で楽しいハーレー”を提供出来るものであることを自信をもってオススメするものとなってなっています。取り付けの際に不安を感じる方は是非、お気軽に弊社へご相談ください」。

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今回は『トラックテック開発秘話フロント編』として当社代表の“ZAK”柴﨑の言葉をストレートにお伝えさせて頂きましたが、このブログで少しでも“サスペンションの重要性”と“何故、サンダンスがフロントスプリングの交換から推奨するのか”をご理解いただける方が増えれば幸いに思います。

次回は『リアサス編』となる予定ですが、そちらもナカナカ“濃い”内容となりますので皆様、しばしお待ちください。

 

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